メーテルの黒いコートが黒い理由:喪失と再生を纏う衣の意味【考察】
銀河鉄道999でメーテルが常に身に纏う黒いコートと大きな帽子。あの衣装がなぜ「黒」なのか、疑問に思ったことはないだろうか。
単なるデザインの問題ではない。あの黒には、メーテルという存在の本質が込められている。
黒という色が持つ意味
黒は喪服の色だ。西洋でも東洋でも、黒は「死」「悲しみ」「喪失」と結びついている。
メーテルがそれを知らないはずがない。機械化帝国の後継者として生まれ、あらゆる知識を持つ彼女が、無意識に黒を選んだとは考えにくい。
では何を悼んで、彼女は黒を纏っているのか。
メーテルが失ったもの
メーテルが喪ったものは多い。
まず自分の身体だ。彼女はすでに機械化された肉体を持つ。生身の人間として生きることができない。あの黒いコートは、取り戻せない「かつての自分」への弔いとも読める。
次に母との関係だ。女王プロメシュームは機械化文明の頂点に立ち、感情を不要なものとして排除した。メーテルはその母の意志を継げなかった。後継者として期待されながら、その期待を裏切った。母娘の断絶は、もう一つの喪失だ。
そして鉄郎への感情だ。彼女は鉄郎に寄り添いながら、最終的には彼を「機械化帝国を壊す存在」として育てる役割を担っていた。近づくほど遠ざかる。その矛盾した関係もまた、最初から失うことが決まっていた何かだ。
黒いコートは鎧でもある
喪失を示すだけでなく、黒には「隠す」機能もある。
メーテルは自分の感情を容易に見せない。悲しみも、葛藤も、鉄郎への複雑な想いも、あの黒の内側に閉じ込めている。コートは彼女の心の防壁として機能している。
白いコートを着た存在は、銀河鉄道999の世界では「開かれた」印象を持つ。黒はその逆だ。見せないことで、自分を守る。傷つかないために、傷つく前に閉じておく。メーテルの黒はそういう性質を持っている。
帽子の意味
黒いコートとセットで語られるべきは、大きな帽子だ。
帽子は「顔を隠す」道具でもある。メーテルの顔は、鉄郎の母に似せて作られた。自分の顔が少年の悲しみの上に成り立っているという事実を、彼女は知っている。
帽子で顔を隠すのは、その「罪」を直視させないための配慮とも読める。顔を見せれば鉄郎は母を思い出す。それを少しでも和らげようとする、メーテルの無意識の行動かもしれない。
黒は再生の色でもある
一方で、黒は終わりではなく「始まりの前の静寂」でもある。
植物の種は黒い土の中で芽吹く前に眠る。夜の黒は朝を準備する時間だ。メーテルの黒いコートには、「まだ何かが始まる前の静けさ」という意味も重なる。
彼女は旅の終わりに鉄郎の前から去る。しかしその別れは、鉄郎にとっての再生の始まりでもある。メーテルの黒は、少年を新しい朝へ送り出すための、最後の夜の色かもしれない。
まとめ:黒は告白だった
メーテルの黒いコートは、無数の意味を重ねて纏った衣装だ。
喪失の弔い、感情の鎧、罪への配慮、そして再生への準備。あの黒の一枚を通じて、松本零士は「感情を持ちながら感情を隠すしかない存在」の孤独を描き切った。
次にメーテルを見るとき、あの黒が少し違った色に見えるはずだ。

